「歩くスキー」で僕がゲレンデの頂上に立つと、スキー仲間はみんな笑った。だけど、僕が、急斜面を華麗に滑り始めると、、、
雄三はちょうど5杯目のビールを飲み干したところだった。その日は、学生時代からのスキー仲間が集まって、その日のスキーのバッジテストで1級に合格した彼をいつもの居酒屋で祝っていた。スキー仲間では初の1級合格の快挙に彼に対する賞賛の声と羨望の眼差しはやむことがなかった。だけど、その一方で僕は、あることをみんなに伝えなければならなかった。ひとしきり、雄三の1級合格の話題で盛り上がったところで、僕は静かに話し始めた。
「こんな時にだけど、、、実は俺、新しいスキーを始めたんだ」
「新しいスキーって?ショートスキーとかファンスキーとか、どんどん新しいスキーが出てきているけど、一体どんなスキーなんだ?最近の流行りのスキーなのか」雄三が聞いてきた。
「いや、最近のスキーじゃないんだ、むしろ昔ながらのスキーで、平地を歩くことができて、斜面も滑れるスキーなんだ」と僕が答えると
「昔ながらのスキーで歩けるということは、、、何だ、賢太郎、今さら歩くスキーを始めたのか?」と雄三が聞き返してきた。
「いや歩くスキーとは少し違うんだ。テレマークスキーって言うんだけど、歩くスキーのように平地を颯爽と駆け抜けて、急斜面も華麗に滑り降りることが出来るスキーなんだ。1800年代のノルウエーで近代スキーの歴史が始まったんだけど、その時の『スキーの原点』というべきスキーなんだ」と僕が答えると
一瞬、場が静まり返った後、今度は嘲笑とため息のまざったざわめきが起きた。
「賢太郎、そのテレマークスキーっていうのは始めて聞くけど、歩いて滑れるっていうのは本当なのか?歩けるっていうことは歩くスキーのようにかかとは上がるのか?」歩くスキーの経験がある健司が聞いてきた。
「うん。歩くスキーのようにかかとは上がるし、靴は登山靴のように軽く足首をガードするだけなんだ。だから歩くスキーのように平地を颯爽と駆け抜け、急斜面を華麗に滑降できるんだ」僕が答えると
「かかとが上がるスキーで、平地を歩けるのは分かるが、急斜面を滑ることが出来るわけがないじゃないか? バランスを崩して転倒するのがオチだぜ。急斜面を滑るためには、歩行性能を犠牲にしてでも足首をがっちりとサポートしてかかとを固定しないといけないんだ」とスキーの理論派でもある雄三がすかさず返してきた
「テレマークターンを使えば革靴のような軽装備でも急斜面を滑ることができるんだ」僕が答えると
「テレマークターンだって?革靴で急斜面を滑るだって?」と驚きの声と同時に、コソコソと話す声も聞こえた。「あいつもこれで終わったな」「スキーの原点だって、そんな昔のスキーで急斜面が滑れるわけないだろう」「バカなやつだ。革靴と歩くスキーで急斜面を滑ろうとしたら、どんなにスキーの腕があっても転倒するのがオチだぜ」・・・彼らは僕が絶対に失敗するだろうと思っていた、、、
そして、1年後の冬
そして、1年後の冬にスキー仲間が集まって、それぞれの滑りの上達ぶりを披露しあう場所で……
みんなが最新モデルのアルペンスキーモデルを自慢し合っていた。
そんな中で僕が使った用具は、歩くスキーにエッジをつけただけの細いスキー板と革靴だ。もちろん歩くスキー同様かかとは固定されていない。見た目は、ほとんど歩くスキーだ。
まず、平地で軽やかにスケーティング走行でスケートのように走って見せた。全速力で走るのと同じぐらいのスピードがでる。しかし歩くスキーとして見れば当たり前のことなのでこの時はまだ誰も驚きはしなかった。
参考動画 スケーティング走法 出典:YouTube 荻原健司公式
そしていよいよ、リフトに乗って、ゲレンデの頂上を目指した。
この時になると「本当に歩くスキーで斜面をすべる気かよ?」「コントでもやるつもりか?」「歩くスキーで急斜面を滑ろうとするチャレンジャー精神だけは尊敬するよ」と半ばあきれながらも、仲間なのでせめて転んで降りられなくなったら助けてやろうというあきらめムードになっていた。
そして頂上に立って斜面を滑り始めると・…
最初のターンで誰もがバランスを崩して転倒すると確信していた。
しかし、バランスを崩したと思われた次の瞬間
僕は、山足を沈ませてひざまずくような「テレマーク姿勢」をとった。
参考画像 テレマーク姿勢

すると大きなどよめきがおこった。
すぐに体制は安定し、華麗なテレマークターンで見事にスピードをコントロールしている。
テレマーク姿勢は、スキージャンプの着地の時の姿勢として知られているけど、本来はターンをするためのものなんだ。
僕は、アルペンスキーのウエーデルンのように、右に左に連続でテレマークターンを決めた。
参考動画 テレマークターン 出典:YouTube 細板革靴 テレマークの楽しみ 坂根一弘氏
どよめきはすぐに称賛に変わった。
「あんなターンは初めて見た」
「まるでワルツ踊るような優雅なターンだ」
「歩くスキーでここまでやるとは…」
そして、仲間内で随一のアルペンスキーの腕を持つ雄三までもが
「これがテレマークスキーか・…歩行性能を犠牲にしなくても急斜面を滑れるスキーが本当にあったんだ。俺も習ってみたい…」
と悔しさをかみしめながらも興味を隠せない様子だ。
完全なる勝利!
ぼくがゲレンデの麓に到着し、テレマーク姿勢でフイニッシュを決めると、先回りしていたスキー仲間達の大きな拍手に包まれた。
テレマークスキーを疑っていた雄三が真っ先に駆け寄ってきた。
「賢太郎、すごいじゃないか!そんな歩くスキーとほとんど変わらない軽装備で、こんな急斜面を滑りきるなんて。しかも、テレマークターンは、今まで見たこともないような神秘的なターンだ。平地を軽やかに駆け抜けてしかもこんな急斜面を華麗に滑りきるテレマークスキーは素晴らしいよ。一体この技をどこで習ったんだい?」
すかさず歩くスキー経験者の健司が雄三に尋ねた「雄三、お前はまさかアルペンスキーをやめるつもりか? お前はいつだってアルペンスキーの腕は一番で、俺たちを引っ張ってきてくれたじゃないか」
雄三が健司に答える「心配するな健司、アルペンスキーをやめるつもりはないよ。これからも、技を磨いて更なる高みを目指すつもりだよ。でも、アルペンスキーとは別にテレマークスキーにも挑戦したいんだ。俺は学生時代から今まで全国のスキー場の難関コースを制覇してきた。スピードでは誰にも負けるつもりはない。でも、歳を取るにつれて、スキーはスピードだけじゃないことに気付いたんだ。もちろんスピードを追求することも大事だけど、それだけでは大事なものを見落としている気がするんだ。今、テレマークスキーを見てはっきりとそれが分かったよ。」
アルペンスキーがドライブなら、テレマークスキーはサイクリングと散歩
さらに雄三は続けた「アルペンスキーがドライブなら、テレマークスキーは、サイクリングであり散歩でもあると思うんだ。ドライブをして偶然素晴らしい風景の町に出会ったら、車を降りてじっくりと散策したいと思うのが普通だ。そんな時は自転車を借りてサイクリングしたり、さらにゆっくりと徒歩で散歩をしたりするよね。スキーも同じなんじゃないかと俺は気付いたんだ。今まで俺たちは、多くのスキー場をアルペンスキーに乗って高速で駆け抜けてきた。そんな中で多くの素晴らしい景色に出会ってきたはずだ。今度は、テレマークスキーに乗って、スピードを落としてゆっくりとその景色を味わいたいんだ。賢太郎、どこでそのテレマークスキーを習ったのか教えてくれないか?」
雄三が話し終えると、他のスキー仲間達も口々に
「賢太郎!俺にも教えくれないか?」「俺にも...」「俺にも.....」
とテレマークスキーに名乗りを上げ始めた。
思わぬ雄三と仲間達の言葉に、僕は感動し目頭が熱くなってきた
「みんな、ありがとう!テレマークスキーを理解してくれてとても嬉しいよ! テレマークスキーを習ったのは、岩手県の八幡平リゾートスキー場にあるRASU-Tテレマークスキースクールだよ」
僕はみんなにテレマークスキーについて知っている全てを話した。
テレマークスキーは、「平地を走って」、「斜面を登って」、「斜面を滑り降りる」3拍子揃った近代スキーの原点
テレマークスキーは、現在のアルペンスキーを始めとする全ての近代スキーの原点です。近代スキーの原型は、1800年代にノルウエーのテレマーク地方で確立されたことから、テレマークスキーと呼ばれています。テレマークスキー発祥の地であるノルウエーの地形は、なだらかな丘陵地帯が広がっているため、急斜面は少なく、「斜面の滑走性能」よりも「平地の歩行性能」が重視されました。その結果、ノルウエーでは、スキーのかかとを固定せずにターンをする「テレマークターン」の技術が生まれました。
この「テレマークスキー」が中部ヨーロッパのアルプス地方に伝わった時に、大きく変化します。中部ヨーロッパのアルプス地方は、ノルウエーと違って、アルプス山脈をはじめとする険しい急斜面が多いため、かかとを固定せずにターンをする「テレマークターン」では、不安定になり転倒しやすくなります。 そこでかかとを固定して、足首もがっちりとガードして、急斜面で安定性をはかった、現代へと続く「アルペンスキー」へと大きく進化を遂げました。
その後、全世界にスキーが伝わると、スキーの主流は「アルペンスキー」となり「テレマークスキー」の技術は失われてしまったと考えられていました。
テレマークスキーは、滑降の主役の座をアルペンスキーに譲り渡した後、歩行に特化したクロスカントリースキー(歩くスキー)とジャンプに特化したスキージャンプに分かれ、ノルディックスキーと呼ばれるようになりました。テレマークスキーの名残は、わずかにスキージャンプの着地の時の「テレマーク姿勢」に留めるのみとなっていました。
しかしその後、1970年代のアメリカコロラド州で、「歩くスキー」のクロスカントリースキーを使って斜面を滑降するスキーヤー達が現れます。 このコロラド州のスキーヤー達は、試行錯誤を重ねた末に、ついに「失われたテレマークターン」の技術を復活させたのです。テレマークスキーは、「平地を走って」、「斜面を登って」、「斜面を滑り降りる」という3拍子揃った近代スキーの原点です。
アルペンスキーの経験者の方にこそオススメのテレマークスキー
テレマークスキーはアルペンスキーを経験された方であれば、すぐに上達できます。テレマークスキーには、アルペンスキーと共通の技術と独自の技術があります。ドライブよりもサイクリングの方がより身近に風景を感じられるように、テレマークスキーは、より身近に雪を感じられます。アルペンスキーでスピードを出して駆け抜けた雪山を、今度はテレマークスキーでスピードを落として、ゆっくりと味わってみませんか。
北東北でテレマークスキーを習うことが出来るのが八幡平リゾートスキー場にあるRASU-Tテレマークスキースクールです。
スキー場へ行かなくても「雪さえあれば出来る」のがテレマークスキーです。雪に閉ざされた冬場でも、近所の公園で気軽にスキーでのジョギングやランニングが出来ます。
スキーはとてもお金がかかるスポーツです。スキー用具代やウエア代の他に、スキー場までの交通費、リフト代がかかります。スキー場はたいてい市街地から離れた山の中にあるので、スキー場の近くにでも住まない限り毎日気軽には出来ません。その点、テレマークスキーは、「平地を走って」、「斜面を登って」、「斜面を滑り降りる」という3拍子揃ったスキーなので、スキー場へ行かなくても雪さえあれば気軽に楽しめます。雪国では、冬場は積雪のため屋外でのジョギングなどの運動が制限されます。そんな時テレマークスキーを「歩くスキー」として使うことで、近所の公園で気軽にスキーを使ったジョギングやウオーキングが出来ます。
そしてちょっとした斜面があれば、「リフトいらず」で、登って滑ることが出来ます。さらにスキーが上達すれば、バックカントリースキーツアーに参加して、自然に触れながらウサギの足跡を追いかけたり、動物を観察したりと行動範囲は広がります。テレマークスキーを習うことで、冬の行動範囲が、近所の公園から本格的な雪山まで大きく広がります。
北東北でテレマークスキーを習いたい方はぜひ、RASU-Tテレマークスキースクールへお申し込み下さい。
PS) 最後に、テレマークスキーの「自由に雪の野山を駆けまわる」というイメージを見事に映像化したCMをご紹介させていただきます。
2003年に放送された、たばこのCMです。




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