【2つの青森】 津軽と南部の400年にわたる確執とは ? (その2)直参と陪臣の厳格な上下関係

前回までは、対立の原因となる安土桃山時代の、津軽氏の独立までの経緯を書きました。

前回の投稿→【2つの青森】 津軽と南部の400年にわたる確執とは ?(その1)確執の始まり

今回は、江戸時代の津軽と南部の確執の背景について見ていきたいと思います。

豊臣秀吉によって、本領を安堵された津軽氏は晴れて独立の大名となります。

秀吉の死後、天下の覇権を決めた「関ヶ原の戦い」では、津軽氏と南部氏はともに徳川方に味方しました。

そして徳川方の勝利の結果、津軽氏と南部氏は徳川幕府のもとで共に「外様大名」としての道を歩み始めます。

戦乱が完全に治まり泰平の世となった江戸時代に入って、津軽藩と南部藩の確執が本格化します。

津軽藩と南部藩の確執は、それぞれの家臣(家来)である「藩士同士の確執」から始まりました。

藩士同士の対立を理解するためには、武士の主従関係を示す「直参」と「陪臣」の上下関係について説明する必要があります。

直参とは主君の直属の家臣のことを言います。

一方、陪臣とは、主君の家臣のそのまた家臣のことで「またもの」とも呼ばれました。

主君

直参(家臣)

陪臣(家臣の家臣)

例としては、武士の頂点に立つ徳川将軍家から見た場合の直参は、大名と旗本と御家人です。
大名は、1万石以上の領地を持つ武士です。旗本と御家人は、1万石未満の領地または蔵米を支給される武士で、将軍に直接会う権利があるのが旗本、無いのが御家人です。

一方、徳川将軍家から見た陪臣は、大名や旗本の家臣です。

大名の家臣の場合、支配する藩の藩士です。

将軍(主君)

大名(直参、藩士から見た主君)

藩士(陪臣)

陪臣から見た直参は、自分の主君と対等な立場の方なので、当然、主君に対するのと同様に接しなければなりません。

陪臣である各藩の藩士は、自分の主君である殿様だけでなく、他藩の「よその殿様」に対しても、主君に接するのと同等の礼節をもって接しました。

このように「直参」と「陪臣」の上下関係は、「主君」と「家臣」との関係と同様に厳格なものでした。

国持ちの大大名の家臣の中には1万石以上の領地を持つ「大名クラスの陪臣」もいましたが、1万石未満の直参である旗本より格下として扱われました。

例えば、加賀100万石で有名な加賀藩前田氏には、「人持ち組」と呼ばれる1万石以上の家臣が8名おり、加賀八家と呼ばれていました。

加賀八家筆頭の本多氏の石高は、譜代の中堅大名並の5万石を誇っていました。
※加賀本多家の祖である本多政重は、徳川家康の懐刀と呼ばれた本多正信の次男で、宇都宮釣天井事件でも有名な本多正純の弟です。

本多家をはじめとする万石クラスの陪審の中には、大名と同様に官位を与えられ(陪臣叙爵)幕府から大名並みの待遇を受けた家もありますが、基本的には直参の大名はもちろんのこと、旗本よりも格下として扱われました。

このことから、戦国時代の荒々しい風潮が残っていた江戸時代初期には、大大名の家臣と旗本との間でたびたびトラブルが起きています。

では、この直参と陪臣との上下関係が、津軽と南部の確執にどのような関係があるのでしょうか?

前回の投稿で記述したとおり、津軽氏はもともと南部氏の家臣でした。

安土桃山時代に、津軽氏が当時の主家である南部氏の家督相続争いに巻き込まれ、謀反の疑いをかけられるというピンチをチャンスに変えて、独立を果たしました。

しかし、南部氏やその家臣から見れば、独立は謀反行為であり、津軽氏は、「主家に反逆した裏切り者」です。

よって、南部氏の直参である南部藩士から見た場合の津軽氏は、「裏切りによる独立」がなければ自分たちと同格の南部氏の直参であるという意識がありました。

そうなると、南部藩士から見た津軽藩士は、本来なら自分たちより格下の陪臣の立場となります。

津軽氏独立前の主従関係

南部氏(主君)
_____|_____
|          |
南部氏の家臣(直参) 津軽氏(直参)
※後の南部藩士     |
          津軽氏の家臣(陪臣)
          ※後の津軽藩士

一方、津軽藩士からしてみれば、江戸時代以前の経緯がどうであれ、津軽氏は江戸幕府から公認されたれっきとした大名であり、南部藩士と対等な立場です。

南部藩士から格下と見られることは、許せるものではありません。

このような経緯から、津軽藩士と南部藩士の感情的な対立が始まり、その対立が領民にまで浸透しました。

感情的な対立によるトラブルもたびたび起き、歴史に残る事件も発生しています。

今回は、江戸時代における津軽と南部の確執の背景について書きました。

次回は、津軽と南部の間で発生した事件について取り上げたいと思います。

 

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